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シバタ塾 こぼれ話
第4話『空気線図誕生』

 

shiba
前回は田村宇之吉さんの技術考案の裏話を伺いましたが、先生が機械製茶理論を考え出したときの裏話はありますか?



空気線図をつくるきっかけは、意外なところにありましたよ。あれは、最初から製茶のメカニズムを理論化しようと思って始めたわけではありません。

昭和30年代の製茶工場は、高温多湿の劣悪な作業環境で、人力で蒸し葉をミに入れて運んでいました。高度成長期に入り、お茶師さんが不足して後継者育成のために「茶工場の労働環境改善」が大きな課題だった昭和40年頃、試験場に勤務していた私は、試験工場をつくる仕事に携わりました。その鉄骨スレート葺の新工場では、作業線通風装置や通気窓をつけて工場内の換気を良くし、快適な労働環境を整えました。その工場で製茶したお茶が、たいへん品質の悪いガサガサのお茶になってしまったのです。 その経験から、科学的な製法につながるヒントが生まれたのです。

まず、品質が落ちた原因についてよく考えました。労働環境改善のために、古い工場の温度や湿度といった環境データを採ってありましたから、その比較を見ると、どうも新設工場の通気性をよくしたことに原因があるらしい。そこから、近代化のためには環境と製茶設定の関係を徹底的に理論化することが必要だと感じたのです。当時のお茶師さんたちは、経験と勘で製茶を行っていましたが、その経験の中には「玉露を揉む時には部屋に目貼りをする」など、製茶時期の気候への対処も含まれていました。でも、それを理論で説明することはできなかった。近代的な工場で機械を使って製茶をしていく時代に入るとき、「何を根拠に製茶工程の加減を決めるのか」を理論的に明らかにしなければいけなかったのですよ。 そこで私は、乾湿球温度から出した絶対湿度を基準として、その絶対湿度に応じた熱風温度の調整について理論化し、空気線図にその理論を集約したのです。


shiba
空気線図は労働環境の改善から生まれたんだ。当時は大型製茶機械の発展期ですから、明らかな根拠と理論を示していく必要があったのですね。



機械製茶には高度な乾燥理論が裏付けとしてあり、根底にある熱工学はとても難しい学問です。それに、手揉み製茶は伝統的な製法であり、実際に完成度の高い技術ですから、機械化した場合に全く違った理論が必要だということを理解していただくのはたいへんなことでしたね。当時は、蒸し葉をミでバサッと入れていたわけですから、量も勘で決めていた。もちろん温度なんか測りません。「お茶は頭で揉むものじゃない」なんて言われていましたから。それをひとつづつ科学的な根拠から理論化して、みなさんに理解していただきました。
 理論の普及に先駆けて、製茶機械は製茶条件に応じた計測と自動化ができるように発達しています。大切なのは、茶農家のみなさんが機械の機能を最大限に活かして、いいお茶づくりをすること。これからも、多くの茶農家のみなさんに機械製茶技術を伝えていきたいですね。

 

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