序章 『手揉みから機械製茶へ』 |
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手揉み製茶に科学の理論を!
手揉みのお茶師さんって、「職人さん」ってカンジで、教えてもらうのがたいへんそう。
そうかな?職人さんは、身体で覚えて立派なお茶をつくるからね。もちろん、お茶を製造する技術そのものは非常に完成された高度なものなんだけど、それを説明する理論的な教科書はなかったのです。それに、職人さんが手で感じながらつくるのを機械にやらせようっていうんだから、それはたいへんなことなんですよ。
手が機械に変わるって、そんなにたいへんなの?
それで、先生は機械製茶についてどんな風に研究をしたの?
もう一度原点に戻って、理論的に解析をして、新しい理論をつくり直しました。いわゆる技術解析というもので、「化学工学」にもとづいた理論を立てました。機械の進歩は、たとえば、お茶の葉をせいろで蒸して、さまし台にそのお茶を広げて、ウチワで煽って…という作業が扇風機になったりしてきた。でも、処理したい茶葉の量がちがうし、生葉の状態もちがう。もっと言えば、葉っぱと茎の水分量が違うのを、機械で均等に乾燥させようとするのだから、簡単なわけないよね。だから「どういう乾燥のさせ方がいいのか」ということから、環境、原料、機械…すべての条件を組み立てて理論化しました。
原点…?ふーん。機械製茶ってむずかしいんだ。「こうするといいお茶ができるよ」っていうのじゃないんだね。
そうですよ。複雑な条件、とくに製茶する時のお天気などで、工程の設定を変えなければいけない。雨の降った日には乾きが悪いし。春は空気が乾いているからお茶が乾きやすいし、夏は湿気が多いから乾きにくい。ミル芽かコワ葉かでも、もちろんちがうよね。そういうとても複雑な、いろんな条件が関わってきます。熱風温度は何度か?毎日違う。回転数はいくつか?胴のサイズや処理量によって違う。ひとつの数字や結論では表せないはずだということを理解してもらうのが難しかったかな。
それで、先生の「シバタ理論」っていうのができたんだね。その「シバタ理論」って、どういうものなの?
ひとことで説明するのはむずかしいけど、技術を科学的に解析して数値化していったんだ。それにはまず、手揉みの技術を理論化する必要があった。上乾きせず、グシャつかず、いいお茶を揉むにはどうしたらいいのか。蒸しから仕上がりまでの工程を総合的に実験・研究して、効率よく最適な茶の乾燥工程を科学的な数値で表しました。数値化といっても、「何度で何分間…」なんていう絶対的な数値を出すんじゃなくて、さまざまな製茶の環境のもとで、どういう製茶をしたらいいお茶ができるのかということに焦点をあてて研究したのです。製茶はすべての工程が関係し合うし、また、天気や機械のサイズ、生葉の状態などの条件とも深く関わるから、端的に一つの数値で言い切れるものではなくて、「こういう条件のもとではこのように調整する」というように、製茶条件を数値で表し、それに対する製茶工程の基準も数値や計算式で表現しました。その内容を短く説明するのはむずかしいから、これから追々説明していきますね。数値に表したことによって、昔はお茶師さんの勘と経験にたよっていた作業が理論化されて、製茶機械のセンサーで計測し、FAで制御できるようになりました。 そのセンサーで計測した数値で、どのように製茶したらいいかを、熱や風量、力(バネ圧など)など、一つひとつの工程で科学的に解析しながら理論化していったのが、みなさんのいう「シバタ理論」ということです。
なんか、むずかしくなってきたぞ。製茶するときにFAで設定している時間や温度の基礎を考えたのがシバタ先生なんだね。すごいな。でも、なぜこの理論をつくったの?
それまでは、お茶師さんの勘と経験がたよりで、しかも名人になるには何十年もかかるでしょう。それに、ホイロで少量のお茶を揉むのに4時間以上かかってしまうから、一度に大量のお茶はできないし、新茶の時期は短期集中で来るからね。手触り、香り、投入量など、すべて勘で行われていた製茶技術をまず計測して理論化し、機械化すれば、たくさんの人がいいお茶を大量につくれるようになるから、機械製茶の理論化は必要とされていたんですよ。
さらに、これからの製茶で必要なことは、農家のみなさんがどういうお茶をつくりたいのかということ。消費者に提案するお茶づくりが求められています。明確な商品像があって、その製品設計に基づいて製茶機械を設定するとき、熱や風や処理の時間などによって茶葉がどう変化するのかを理解していれば、設計した製品にお茶を仕上げることができますから、ぜひ覚えていただきたいですね。
みなさんが自分たちらしいお茶づくりをしましょうってことか… 勉強し甲斐があるね。塾生のみなさん、がんばりましょう! |
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