You are here: TOPPAGE 歴史探訪案内 昔ばなし 第6回 桜木の椀貸池  

昔ばなし

桜木の椀貸池

 昔むかしのお話です。桜木の里の深い山と山との囲まれた池は静かで物音ひとつ聞こえず、まるで眠っているようでした。
 ある日、吾作という百姓の若者がしょんぼりと池にたたずんでいました。吾作は三日後に「おちよ」という器量のよい娘を嫁に迎えることになっていました。吾作は、この婚礼をたいへん幸せに思い、山をへだてた隣の婆様に話したところ、たちまち村中の評判となり、村人たちも働き者で気のいい吾作の婚礼を心から喜んでくれていました。
 ところが、吾作は幼いころ両親と死に別れ、小作の身分で耕作する田畑もよい場所ではなく、貧しい暮らしをしておりましたので、村人に祝いの膳を振る舞うことができないのです。でも、喜んで祝いに来てくれる村の衆の気持ちにこたえたいと思い、困っていました。吾作は池の堤に立ち、
「一生一度の祝いごとです。どうか一日だけでええ、お椀を貸してくだされ、十個でええ、神様貸してくだされ。」
と、池に向かって手を合わせて一身に祈りました。
 すると、どこからともなく
「吾作や、おまえの願いをかなえてやる。明日の朝早く人目につかぬうちにここに来るがよい。」
という声が聞こえてきました。おどろいた吾作はあたりを見回しましたが、人影はありません。このあたりは山深く、狐にだまされたとか、大蛇が住んでいるとか、恐ろしい噂がある淋しいところですが、吾作はお椀が欲しい一心で朝が来るのを待ちました。
 東の空が白んでくると、吾作は一目散に池に走りました。薄暗い池の端に、それは立派なお椀が十個並んでいました。吾作は、
「ありがたい。神様が授けてくださったのなら、必ずお返しします。狐がだましたのなら、どうか婚礼がすむまで木の葉にならずにいてください。」
と、祈りながら持ち帰りました。
いよいよ婚礼の日です。村の人たちは手土産を持って集まって来ました。ささやかな祝いがはじまると、村の人たちは、貧乏なはずの吾作に出されたお椀を不思議に思い、とうとう問いただしました。吾作は迷いましたが、今までのいきさつを語りました。皆は驚き、この出来事は遠くの村まで知れ渡りました。それからこの池を椀貸池と呼ぶようになったのです。

 

昔ばなしのもくじ 桜木の椀貸池 椀貸伝説に関する考察  

 

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