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昔ばなし
おへそ山
今から四百年ぐらい前のこと。 遠江の国佐野郡の薗ケ谷村に、印徳寺という小さなお寺がありました。 その寺の向かい側にお薬師様のお堂があって、門前の石段のそばに、大きな杉の木がありました。 ある夏の午後、たいへんひどい夕立ちがあり、その大きな杉の木に雷が落ちました。 それはそれはものすごい音でした。 印徳寺のおしょうさんが、驚いて見に行くと、大杉はまっ二つにさけ、根元に雷獣が大けがをして苦しんでいました。 やさしいおしょうさんは、あわれに思い、傷の手あてをしてやりました。 雷獣は、たいへん喜んで、 「ありがとう。ありがとう。」 と、何べんもお礼をいい、自分のおへそをとると、おしょうさんに、 「このおへそは、お百姓が日照りで困ったときに出しておがむと、きっと雨がふってきます。」 と、いったかと思うと、かきけすようにどこかへ行ってしまいました。 おしょうさんは、信じられない気持ちでしたが、それを、たいせつに錫の茶筒に入れ、お寺にしまっておきました。 | |
ある年、日照りがつゞき、これではお米がとれないだろうと、村の衆はたいへん心配をしました。 おしょうさんも気が気ではなく、毎日空をあおいでいましたが、ふっとおへそのことを思い出しました。 おしょうさんは、おへそをとり出し、ちょんだらい(三本足のついた、たらい)に水を入れ、その中に、雷獣のおへそを浮かせました。 それを持ったおしょうさんは、この辺で一ばん高い二本松のあるお山へ登っていきました。 おしょうさんのあとから、村の衆もおおぜいついて登っていきました。 二本松につくと、おしょうさんは雨乞いのお祈りをし、村の衆もそれにあわせました。 鐘やたいこをうち鳴らし、 「まかさった竜王大明神、雨をふらせたまえ。」 と、となえました。 | |
一日たち、二日たち、三日目になったとき、前の山に黒い雲がわき出て、みるみるうちに空いっぱいにひろがり出し、それといっしょにはげしい雨が降って来ました。 村の衆はおどりあがって喜んだのなんのって。 それから後、日照りで困った時にはきっと、おへそを二本松に持っていっておねがいをしたそうです。 いつの時にも三日もすると雨が降り、村の衆を喜ばせました。 村人たちは「おへそを出して見てはいけない」というおきてをつくり、雨乞いがすむと、お寺の厨子の中に大切にしまいました。 雨乞いのとき、おへそを見た人の話しでは、それはさざえのふたのようなもので、金色の毛が生えていたそうです。 |
*資料提供/掛川歴史教室
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