第4回蒸し 『お茶の蒸し度と嗜好』 |
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4-1.「蒸し度と嗜好」
4-1-1.目的
まず、「なぜお茶を蒸すのか」をおしえてください。
摘んだ生葉は、なるべく速く加工する。お茶の葉は、酸化酵素のはたらきで摘んだらすぐに発酵がはじまります。その酸化酵素の活性を止めることが第一の目的。さらに蒸すことで生葉の青臭さを取り除き、緑茶独特の香味を引出す。そして、工程上でも葉の柔軟性を持たせて揉みやすくすることも蒸しの目的です。
深蒸しをつくるのか浅蒸しなのかで蒸熱工程が変わってくるんでしょ?蒸し度だね。蒸熱工程は、お茶のもつ色や香りを決定する重要な工程です。深蒸しや浅蒸しというのは、蒸し加減によって消費者の嗜好に合わせているわけ。たとえば、一般的には関東では深蒸し好み、関西では浅蒸し好みなどといわれますが、これも時代や生活、流行などによって変化していくものです。ですから蒸熱については、特にお茶師さんの製品設計が重要になりますね。
[Point-1]嗜好の地域性
だしの好み同様、お茶の好みも地域によってちがう。
4-1-2.関西好みと関東好み
関西好み、関東好みって?
お茶壷道中って知ってるでしょ。あれは徳川家が山に貯蔵しておいたお茶を、秋風が吹く頃に降ろしてきた行事です。その降ろしてきたお茶を殿様が飲んでから、はじめて庶民がその年の新茶を口にしたのです。今でも茶道で封切り茶という行事が秋にありますが、昔から 関東の新茶は秋だったってこと。秋までに保管されたお茶は後熟して、味が変化していました。関東の人たちは、その変化した古茶を好んで飲んだのです。逆に関西は、お茶の産地が多いから新茶を好んで飲んだ。そういう歴史から嗜好の地域性は今でも残っているのですよ。
4-1-3.蒸し度のちがい
でも、今は後熟しないでしょ? 冷蔵庫があるもん。
そのとおり。冷蔵庫が普及したら、関東の人たちが「お茶がまずくなった」って言うようになったんです。香り高い透明感のあるお茶がいつでも手に入るようになったのだけれど、それまで関東の人は後熟して赤味をおびた、甘味があって渋みは少ないお茶を好んでいましたから不満の声が出た。そこで登場したのが深蒸し茶なんだ。
[Point2]後熟とは
常温で貯蔵されていたお茶が、自然に酸化(温度×時間)して好ましく変質したもので味と香りに風味が加わります。
深蒸し茶?でも深蒸し茶って、濃い緑色だよ。
左:浅蒸し茶、右:深蒸し茶
手前:深蒸し茶をろ過したもの冷蔵庫が普及した当初の深蒸し茶は、もっと赤い色をしていました。最近の深蒸し茶が濃い緑色をしているのも、お茶の葉が粉になって沈澱しているからで、こし紙でこすと粉が残り、水色はそれほど青みがかってはいないんですよ。
それに、お茶の水色は濃いものがいいわけではないんですよ。私の理想の水色は透明です。
ほんとだ。でも、どうして冷蔵庫が普及したら深蒸し茶が出たの?化学的に言えば、発酵を止める目的でお茶を蒸すには40秒くらいで十分なんです。深蒸し茶は、それ以上蒸すことで後熟した状態をつくるために行われたのですよ。自然の変化の変わりに、製茶工程で人為的な加工をほどこしたものが深蒸し茶。飲み比べてごらん。
ZZZ…。浅い蒸しの方は渋みがあって、青みを感じるような新鮮な香りですね。深蒸しは甘味があってまろやかだけど、香りが少ないです。なぜなんですか?
蒸しによって風味や香りが変化するから。香りの成分は揮発性の物質ですから、高温で長時間蒸すと茶の香りが飛んでしまいます。「蒸れ香」というのを聞いたことがあると思いますが、お茶に含まれているたくさんの香りの成分の低沸点の香気成分が揮散してしまうことを蒸れ香といいます。
お茶の香りの主な成分 青葉アルコール、ヘキサノール、オクチルアルコール、イソブタノール、リナロール、ゲラニオール、フェニルエタノール、酢酸ベンジル、シスジャスモン、インドール、ネロリドール、オクチルアルコール、α-イオノン、β-イオノン、マタタビラクトン、パラピニルフェノール…
売り先の好みに合わせてお茶を蒸すのはたいへんだね。
そういうこと。でも蒸し度の調節をするためには、多くの知識が必要です。原料、つまりミル芽・硬茶などの生葉の品質によって変えなければいけないのです。それに、なによりもお茶が嗜好品であるということを忘れずにね。市場に合わせた製品設計をして、どんな蒸し具合にするかを決めることが大切なのです。
まず熱の性質を知ることから始めましょう。
次に蒸熱工程で使う熱の性質について説明をします。
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