■2-1.豊橋の着眼点
豊橋の点滴液肥試験は、施設園芸の考え方を取り入れて研究されています。ここで行われた点滴液肥試験の目標は、現状の収穫量を維持しながら施肥量を50kg以下に抑えることでした。
アンモニア態窒素は土壌表面に吸着して硝酸態窒素に変化した後に溶脱すると言われ、豊橋の試験では尿素液肥を点滴で少量づつ与えることで、茶樹のストレスを抑えながら有効に養分吸収をさせようと試みたものです。
さらに、施工のコストを抑える、管理を容易にするなど、実用化しやすい条件を考慮しながら試験をされていました。
|
|
■2-2.点滴液肥試験の内容
愛知県はてん茶の産地です。この豊橋の試験は自然仕立てと弧状仕立てのてん茶園で行われていて、試験概要は下のとおりです。
試験地は50mほどの畦が2畦。慣行区、25kg液肥区、50kg液肥区に分けられて、液肥区には樹冠下にチューブが施工されています。
液肥区は制御盤でコントロールされていて、尿素液肥が樹冠下点滴により毎日施用されます。
|
◆試験方法の概要
供試面積 |
120m2 |
供試茶種 |
自然仕立ててん茶園(やぶきた・33年生)
弧状仕立ててん茶園(やぶきた・33年生) |
試験区 |
1)液肥窒素25kg/10a区
2)液肥窒素50kg/10a区
3)慣行施肥区窒素:69kg/10a区 |
試験期間 |
2000年6月〜 |
使用液肥 |
尿素複合液肥 |
施肥方法 |
樹冠下点滴施肥試験における施肥設計
|
液肥N25kg区 |
液肥N50kg区 |
慣行施肥区 |
年間施肥量(kg/10a) |
窒素 |
25.0
|
50.0
|
69.0
|
リン酸 |
10.4
|
20.8
|
26.7
|
カリ |
14.6
|
29.2
|
27.2
|
液肥施用量(リットル/10a/日) |
散水量 |
2,000
|
4,000
|
-
|
※ドリップ型潅水チューブ(点滴ピッチ10cmを畦方向に株を挟んで樹冠下(2条)に設置。
※一番茶生育時期の液肥窒素濃度は他の時期の3倍濃度とし、冬期は潅水のみ行う。 |
|
|
|
|
|
自動液肥装置
制御盤で設定した液肥量が流量計で管理されて点滴施肥される。用水確保ができていれば、必要な作業は10日に1度程度のタンク交換だけ。 |
パイプの施工
10cmピッチで空いた穴から液肥が点滴される。畦が長い場合は水圧を必要とするため、現在は50m以下を想定。 |
|
■2-3.試験肥料の内容とコスト(豊橋農業技術センター資料より)
◆慣行区の施肥設計
施肥時期
|
種別
|
肥料名
|
施用量
|
窒素
|
リン酸
|
カリ
|
2月中旬 |
春肥
|
なたね油粕 |
280
|
14.8
|
6.2
|
2.8
|
3月上旬 |
〃
|
茶心1号 |
180
|
14.4
|
7.2
|
10.8
|
4月上旬 |
芽出肥
|
硫安 |
50
|
10.5
|
0.0
|
0.0 |
8月下旬 |
秋肥
|
茶心1号 |
180
|
14.4
|
7.2
|
10.8 |
9月中旬 |
〃
|
なたね油粕 |
280
|
14.8
|
6.2
|
2.8 |
|
|
合計 |
|
69.0
|
26.7
|
27.2 |
|
◆使用液肥
|
成分比率
|
窒素(N) |
12%
|
リン酸(P) |
5%
|
カリ(K) |
7%
|
くみあい協同液肥1号 |
|
◆各処理区の年間肥料費
|
年間肥料費
|
液肥25kg区 |
\19,031
|
液肥50kg区 |
\38,063
|
慣行施肥区 |
\51,335
|
※苦土石灰は除く |
|
◆自動液肥装置の施工コスト試算
|
試験区ごとの収量比較 |
|
収量
|
摘採日
|
液肥25kg区 |
1,100kg/10a |
5月15日 |
液肥50kg区 |
1,200kg/10a |
〃 |
慣行施肥区 |
750kg/10a |
5月18日 |
|
※液肥区、慣行区ともに出開度90%程度で摘採。
|
■2-4.点滴液肥試験の現状の成果と経過
今年の収穫での成果を各施肥区ごとに比較したものは右のとおりです(豊橋資料より)。
この結果から液肥は慣行区の1.5倍以上の収穫となります。しかし、ここで気になるのは潅水の影響です。昨年(2000年)6月より実施した試験のため、今年の気象条件の影響や試験内容の比較対照の少なさなど、結果を評価するにはまだ材料が不足しています。また、液肥としての純粋な効果を検証するためには、液肥区と同量の潅水を行った慣行施肥区との比較が必要となります。ですから、雨量の少なかった今年の結果を見る限りでは、“水と一緒に点滴で与える”施肥方法が、水分と肥料の相乗効果、潅水効果があったと言えそうです。
|
■2-5.試験担当者辻さんに聞く
限られた条件の中で行っている試験であり、これから確認すべきことは多くありますが、今年の条件下では液肥区が収量品質共に場内で最も高い評価を得られました。このシステムによって年間施肥量を減らし、収量を現状維持しながら少ない労働力で低コストにできれば・・・と考えています。
点滴液肥は用水の確保ができることが条件です。これが有効な手段として確認されれば、実際の生産場面で有効な点は多く有ります。たとえば、今後生産者の高齢化がますます進みますが、このシステムによって地域で施肥管理をコントロールするのが容易になります。また、被覆によって大きなストレスを受けるてん茶栽培において、茶樹にとってどんな施肥設計が有効なのかを点滴システムによって調査することが可能となります。
現状は指導要領の施肥濃度に基づいて試験していますが、今後試験を継続する中で、与える液肥の内容や濃度、季節毎の窒素分配等を変えて試験してみたい。茶樹の要求に合わせた施肥コントロールを解明できればすばらしいと思っています。
お問い合わせ
愛知県農業総合試験場
豊橋農業技術センター 茶業研究室
Tel:0532-61-6235
室長:木下忠孝様
技師:辻 正樹様
|
|
|