特集5.液肥試験視察
3:点滴液肥利用について木村評


全芽長の比較

■3-1.雨量の少ない夏は今後も続くのか

これまでの各地で液肥が試験されてきた中でも豊橋の試験が注目されたのは、1つには新聞に報じられた記事の慣行区との生育差が大きかったことです。しかし、慣行区の生育が悪い原因は水分の不足によるものとも考えられます。これについては水分のみ施用した茶園との比較が無いためはっきりとは言えませんが、「今後もここ数年のような雨量の少ない夏が続くとすれば」という条件付きでならば有効な施肥方法と言えるでしょう。また、雨に水分を頼る従来の施肥方法に限界を感じ、なんらかの対策を必要と考えた生産者が多かったことと思います。そうした所では、施肥労力の削減、干ばつ対策、低コストでの導入など魅力的な要素が盛り込まれていたものと思われます。

基本編ロゴ 気温と降雨量


■3-2.点滴液肥の利点と弱点(可能性)

ここでは試験経過がまだ1年ですから、私なりに想像されるメリットとデメリットをあげてみます。また、茶園のおかれている状況によってはメリットがデメリットに転じる可能性も含んでいます。

●メリット

  • 点滴施肥の最も大きなメリットは、施肥量をコントロールしやすいことでしょう。
  • 水と一緒に肥料を与えること。
  • 肥料が間断なく土壌に与えられるわけですから、茶樹にとっては常に吸収すべき養分が土壌中にあるということになります。ただし、これは肥沃な土壌でのメリットは少ないと思います。
  • チューブの施工にかかる投資額が比較的ローコストであること。
  • チューブを樹冠下に設置することで乗用型茶園管理機の邪魔にならないこと。
  • 組織単位で導入すればコストを抑えられ、統一された施肥の徹底によって品質の均一化が図れるかもしれません。

●デメリット

  • 樹冠下に点滴することによって、同じ位置に根が集まってしまう可能性があります。水平分布が低下すれば、それだけ根量も少なくなり、樹勢に影響することも考えられます。

●不明な点

  • まず、土壌によってどのような成果が得られるかが不明です。同様に気象条件についても不明です。降雨量の多い年、保水性の高い土壌や透水性の高い土壌でどのような結果が出るかわかりません。
  • 樹冠下には活力ある細根が少ないはずなので、肥料の吸収率が本当に高いかどうか。
  • 終年液肥を使用した場合、品質に対してどのような影響があるか疑問です。(有機質を与えないこと)
  • 広範囲に施工する場合のコスト。大規模な設備が必要になるかもしれません。
  • 点滴によって溶脱量が抑えられるというのは、想像されますが明確に数値で現されたものではありません。
基本編ロゴ 根系分布
摘採位置と収量と全窒素量の関係


■3-3.樹冠下施肥で根っこはどうなる?

細かいピッチで少量の点滴を行っているため濃度障害の心配はなさそうです。しかし、土壌によっては水系(水の道)ができると思います。透水性のよい部分に流れてしまい、液肥が滲みるように広がらないと根の分布にムラが発生します。ぼう軟な土壌では均等に分布すると思いますが、固い土壌では偏りが出るように思います。
また、樹冠下にドロップしていますが、活力ある細根が分布している所にうまく肥料が届いているかどうか。逆に言えば、水と肥料があるところに根が集まりますから、根の広範囲な分布を妨げる可能性もあります。

基本編ロゴ 根の機能

■3-4.液肥だけでいいのか?

同じ成分を液肥で与えるのと有機配合肥料で与えるのとでは同じことですが、品質に差が出ると言われています。これについては試験的に究明されていませんが、土壌中の微生物に与える影響、微量要素の供給など、成分だけで割り切れない肥料の役割があると考えられています。


■3-5.施肥カーブ研究に期待

現在の指導で言われている分施方法が正しいとは限りません。肥料が茶樹にどのように利用されているのかは、すべてが解明されているわけではありませんし、その試験研究はとても難しいのです。茶園の条件は多種多様で、その中でいろいろな肥料の種類や与え方を試してみて、自分たちなりの施肥体系というのが見いだせるのではないでしょうか。茶樹が要求する時に適量づつ施すのが、施肥の理想なのですから。

基本編ロゴ 肥料成分はどのように吸収されるか
施肥時期と分施
年間施肥量の考え方
摘採位置と収量と全窒素量の関係


■3-6.自分の茶園にあった施肥管理手法を見いだす

まず、自分の茶園に導入するかどうか、判断するのはとても難しいことです。それには、導入したら茶樹にどのような変化が起こるか、管理全体はどう変わるのか、トータルで考える必要があり、将来の気象変化など計り知れない要素も農業においては推察して判断材料に入れなければなりません。
しかし、基本に立ち返れば、いちばんに行うべき吸収率アップの対策は「土づくり」です。土壌を耕して有機物を投入し、根が健全に生育する環境を整えてあげることです。今のところ私は、液肥が年間施肥の部分的に効果を発揮することはあっても、液肥だけの施肥で肥料問題のすべてが解決するとは考えにくいと思っています。
また、限られた労働量や資本投下で茶園経営をしていく上では、その方法は経営方針や管理の仕方全般、茶園のおかれている環境によって様々です。たとえばコーティングされたロング肥料を導入するだけで現行の労働量で充分な成果を得られる茶園もあるでしょう。あるいは、液肥と慣行肥料の組み合わせで有効な施肥体系ができるかもしれません。夏期の液肥は干ばつ対策にもなり、生育量の最も高い時期にアンモニア態窒素を十分に供給できれば、秋に成熟した葉を蓄えるのに有効な方法と考えられます。
新しいシステムの導入にあたっては正確な情報を収集し、自分たちの茶園の条件を整理して適した方法かどうかを慎重に判断しましょう。

ロゴ ●[12-3]茶園管理を見直す
←前ページへロゴ次回特集→
 

特集5もくじ 5-1:情報を判断する視点5-2:点滴液肥試験視察5-3:木村評

 

お気軽にご意見ご感想をお寄せください。

お茶街道文化会
主催:カワサキ機工株式会社

ochakaido@ochakaido.com