特集1.品種
5:実際に品種を導入するには


相場と品質■5-1.導入にあたっての不安要素

品種選定は、茶農家にとって大きな経営決断です。一番の不安要素は、永年作物であるお茶は、植栽から成木園となり経済性をもたせるまでに5〜7年かかり、一端植えたら簡単に変更できないことでしょう。各県で奨励品種を決めていて、ある程度がこれから伸びる品種の目安となりますが、シェアが少ないうちは、その品種を植えて経営が必ず良くなるという保証がないのが現状です。

また、市場の評価が必ずしも品質本位ではないという問題もあります。需要と供給の関係から、どうしても早生が高く晩生は安価になり、適期に摘採した晩生品種茶よりも硬葉のやぶきたの方が高い収益があがる可能性もあります。これは、市場の原理ですから仕方ありません。 また、品種単位で製茶する場合に、ロットがまとまらなければ品種茶の価値を出せませんから、導入品種は地域で決めるのが前提となりますが、地域ぐるみで品種ブランド化をしても、現状では必ずしもすぐに高い評価を得られるわけではないでしょう。導入時の品種選定、栽培管理手法をつかむこと、市場で評価を得るまでの販売努力など、計画的な活動を続けて実を結ぶものだと思います。

基本編ロゴ 品種が普及しない要因(アンケート)
(静岡県茶業試験場アンケートより)


地域を先導する人■5-2.地域に普及させるリーダーがほしい

地域で導入品種を統一して進めていくには、先進的な考え方をもった人が先導していく力が必要です。そういう人は積極的に品種や技術を導入するし、品種の特性をつかむのも早いと思います。一方、栽培してみて何年か経過してから品種の特性に気付く人もいるでしょう。地域で一斉に改植することは無いと思いますから、先駆的に行う人たちが栽培結果を公表して、地域でノウハウを共有し温度差を解消していくしかありません。そうやって徐々に地域の目指す方向性を体験的にひとつにしていくのが現実的な方法だと思います。


入手方法■5-3.苗木の入手と栽培管理

登録品種の苗木入手については種苗法によって定められており、育成者に無断で販売することが禁止されています。入手するには、品種ごとに許可を取得した種苗業者や茶業団体、農協経済連等が取り扱っていますから、試験場や指導機関などで求める品種の入手方法を確認してください。

また、品種によって栽培管理方法の注意点があります。たとえば、乗用型茶園管理機のR3000に合わせる場合、直立型品種では裾部が弱くなるので複条植えに植栽したり、仕立方法に注意します。研究機関等から示された栽培上の注意点をよく理解して、品種特性を注意深く観察・記録しながら栽培してください。


 

■5-4.もしも私が植えるなら

これまでお話ししてきたように、品種の選定は気象条件や土壌、経営規模や組織形態などを総合して考える必要があります。加えて、私は育種の専門家ではありませんから、すべての品種を検証しているわけではありません。
ここでは、一個人として知りうる範囲の知識から「現段階で自分が静岡県中部地帯に茶園を持っていたらどの品種を候補にあげるか」を一つの例として考えてみましょう。

私が組織の生産部として品種を導入するなら、早生(山の息吹、さえみどり)3割:中晩生(やぶきた)5割:晩生(おくみどり)2割という構成で検討します。 風がふいて寒い所なら「さやまかおり」あたりも選ぶと思います。山間地なら晩生品種に品質の良い「おくひかり」も候補に入ります。 「あさつゆ」は適地であればやぶきたを減らしてでも入れたい魅力ある品種ですが、管理がたいへんかもしれませんね。 また、「ふくみどり」もいい品種だと思います。これは静岡県の奨励品種ではありませんが、幼木時代の生長がよくて早期成園化にはもってこいです。試飲したことがありますが、中生の品種としては面白い。
ここで 私が候補品種の例をあげた第一のポイントは「安定生産」です。気象条件が生産に与える影響が大きいですから、茶園の地形や気象条件をみて、凍霜害、寒風害の被害を受けやすい立地には、それに強い品種から選択していきます。

基本編ロゴ 品種特性の見方
主要茶産地の奨励品種
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特集1もくじ 1-1:なぜ今品種1-2:地域特性を活かす1-3:選定の仕方1-4:品種構成への期待1-5:実際に導入するには

 

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