10月号
1.花芽の分化と茶の生理生態
-花は樹勢のバロメーター- |
今年の気象状況では、二番茶後に気温が高く雨が少ない経過をたどっていますから、花芽の分化が旺盛にな る可能性が高いと思われます。早いものは9月ごろから着蕾し始めますが、みなさんの茶園の状況はいか がでしょうか。 茶樹に花がつくのは、昔から栄養状態の悪化を示すシグナルとして知られ、嫌われてきました。もちろん、 蕾がつかない茶園の方がいいのは間違いありません。しかし、花が咲いた時に、その状態をプロとしてどう受け止めるのか。どういう対策をするのか。茶樹の生理生態上発生するこのシグナルに直面したときに、 花が咲く原因と咲いたことによる影響について知識があれば、それを冷静に受け止めて、茶園の改善を目的とした新たな栽培管理の目標を立てることができます。 |
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●10-1-1.なぜ花芽の分化が起こるのか 植物の生長には「栄養生長」と「生殖生長」の2つがあります。樹体を発達させるか、それとも子孫を残す方向に進むかの選択をしていると考えられます。茶樹は芽を収穫するものですから、生殖生長に移行することは好ましくありません。 植物の生理生態として、栄養状態が悪化すると子孫を残す方向へと進むため花芽の分化を起こすのです。 |
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●10-1-2.花芽の分化の経過 細い枝の出開き芽の頂部や葉の付け根の部分に着蕾しやすく、とくに頂芽に多く見られます。右図のように、芽の葉腋(ヨウエキ・包葉の付け根部分のこと)の腋芽から分化します。分化すると通常2つの蕾がつき、中央に残った芽の生長は停止します。 |
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●10-1-3.花芽の分化が起こりやすい状況 茶樹の内部的要因は、栄養状態が悪いことです。そこに干ばつや病害虫の被害、地上部と地下部のバランスのくずれ、あるいは樹齢が古いなど 栄養生長が阻害される要因が重なると、花芽の分化をさらに起こしやすくなります。外部的要因として、気象面では、最低 気温が高温で推移した場合(夜の気温が高い場合)に発生しやすいことがわかっています。また、三番茶を摘採しない場合に花がつくことが多い。これは、高温な気象条件で花芽の分化を起こりやすい時期に、花芽の分化しやすい弱い頂芽があるからです。 |
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●10-1-4.花芽の分化を起こしやすい立地と部位 一言で栄養状態の悪い茶園に起こると言っても、茶園を広範囲に観察すると、著しく花が着いた株とそうでない株とがあり、立地や部位によって違いがあることがわかります。立地では、傾斜地の下の方の過乾過湿な土壌の茶園(※)で花芽の分化が多く見られます。また、部位では、株の裾部や、株の中の細い枝が混在した部分が分化しやすい。試験場の研究では9割が頂芽に着いたという結果もあり、秋の時期に頂芽に着花するということは、伸びることができなかった栄養状態の悪い枝に着蕾するということです。 ※過乾過湿の所は、有効土層が浅く根量が少ない場合が多いからです。 |
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●10-1-5.三番茶摘採と花芽の分化 三番茶(※)を摘採すると、ほとんどの場合花芽の分化が起こりません。三番茶を摘採すると、花芽の分化を起す芽が採られるから花が咲かないのです。また、生殖生長に向かおうとしていた芽も、茶樹に対して摘採という刺戟を与えることにより、補償作用で栄養生長に向かうからだろうと思われます。放っておけば花が咲く茶園、つまり樹勢が弱っている茶園で、花芽の分化を起こさせないために摘採や剪枝処置を行うのは、葉層の確保その他の面でよい方法ではありません。 ※三番茶:7〜8月の花芽の分化時期の摘採の意味で、南部では四番茶期にあたります。 |
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●10-1-6.花芽をどれくらい問題にするのか たしかに、花芽の分化は茶園の樹勢を表すわかりやすいシグナルです。しかし、茶樹は自然の植物ですから、ある時ある株のある部分に花が咲いたとしても、そういうこともあります。部分的な開花は自然にあり得ることで、茶園全体から見れば問題になるものではないのです。花芽が散見される程度ならば、あまり神経質にならないこと。一番茶摘採に明らかに影響しそうな、茶園全体から見て「花が咲いている」と判断される場合に、その対策について考えましょう。 |
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10月号もくじ |10-1:花と生理生態 |10-2:花が及ぼす影響|10-3:恒久的対策を|10-4:幼木園の花芽の分化| |
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